総入れ歯で歯茎が痩せる原因〜予防と対処法を歯科医師が解説

総入れ歯を使うと歯茎が痩せるのはなぜ?
「入れ歯を使い始めてから、なんだか歯茎が下がってきたような気がする・・・」
総入れ歯をお使いの患者さんから、こうしたご相談をいただくことがあります。実は、総入れ歯を使用していると歯茎が痩せてくるのは、決して珍しいことではありません。これは「骨吸収」という自然な現象によるものです。
歯茎が痩せるというと、表面のピンク色の部分が薄くなるイメージを持たれるかもしれませんが、実際にはその下にある「顎の骨(歯槽骨)」が吸収されることで起こります。歯茎の厚さは約2ミリ程度しかなく、骨が痩せるとそれに伴って歯茎も下がっていくのです。
ただし、合わない入れ歯を使い続けると、この骨吸収が加速してしまうことがあります。今回は、総入れ歯による歯茎の痩せのメカニズムと、その予防法・対処法について詳しく解説していきます。
歯茎が痩せる主な原因
総入れ歯を使用している方の歯茎が痩せる原因は、いくつかの要因が複合的に関わっています。
骨吸収という自然な現象
歯を失った部位の顎の骨は、生理的に吸収していきます。
これは自然な現象です。本来、歯があるときは噛む力が歯根を通じて顎の骨に伝わり、骨が刺激を受けて維持されていました。しかし、歯を失うとこの刺激がなくなるため、骨は徐々に吸収されていくのです。
歯茎は骨と比例して存在しています。つまり、骨がなくなる(レベルが下がる)と歯茎もなくなる(下がる)という関係にあります。総入れ歯を使用している方は、すでに歯を失っているため、この骨吸収が進行しやすい状態にあるといえます。

合わない入れ歯による圧力
入れ歯が合っていないと、特定の部位に過度な圧力がかかります。
この不均等な圧力が骨吸収を加速させる大きな要因となります。入れ歯は歯茎およびその下にある顎の骨によって支えられていますが、適合が悪いと一部分だけに力が集中してしまい、その部分の骨が急速に吸収されていくのです。
また、入れ歯がずれやすくなることで歯茎に圧力が集中し、炎症や痛みが悪化する可能性もあります。長年問題なく使用していた入れ歯が突然外れやすくなったり、会話中にカチカチと音を立てるようになったりした場合は、歯茎が痩せて入れ歯が合わなくなっているサインかもしれません。
加齢による影響
年齢を重ねると、全身の骨と同様に歯槽骨の密度も自然に低下します。
骨粗しょう症と類似したメカニズムで、顎の骨も加齢とともに密度が減少し、もろくなります。特に60代以上の女性は、女性ホルモン(エストロゲン)の減少により骨吸収が進行しやすくなるため、歯茎の退縮がより顕著になる傾向があります。
平均すると年間で約0.25ミリずつ歯茎が痩せてくるといわれており、10年で2ミリ程度の変化が生じることになります。健康診断で「骨密度が低い」と指摘された方は、口腔内においても同様の変化が起きている可能性が高いでしょう。
歯茎が痩せるとどんな問題が起こるのか
歯茎の痩せを放置すると、さまざまなトラブルが生じます。
入れ歯が合わなくなる
歯茎が痩せると、入れ歯を支える土台が減少するため、入れ歯が緩くなったり痛みを感じたりすることがあります。
入れ歯がずれることで食べ物を噛むときや話すときに違和感や不快感を覚えることも少なくありません。食事中に入れ歯が動いてしまい、硬いものが食べられなくなったり、発音が不明瞭になったりすることもあります。
痩せた歯茎に合わせた調整や、新しい入れ歯の作成が必要になることもあるでしょう。
見た目の印象が変わる
歯茎が痩せると、口元周辺の組織も痩せることで、唇が内側に入り込みやすくなります。
その結果、ほうれい線が目立つようになり、実年齢よりも老けた印象を与えてしまうことがあります。ある調査では、歯茎が下がるだけで9.7歳も老けて見られるという結果も報告されています。
このような見た目の変化はコンプレックスとなり、人前で笑うことをためらったり、会話に消極的になったりする方もいらっしゃいます。
残存歯への影響
部分入れ歯の場合、歯茎が痩せることで残っている歯にも悪影響が及ぶことがあります。
入れ歯の安定性が低下すると、クラスプ(金属のバネ)がかかっている歯に過度な負担がかかり、その歯がグラついたり抜けやすくなったりする可能性があるのです。また、入れ歯と歯茎の間に食べ物が挟まりやすくなり、残存歯の虫歯や歯周病のリスクも高まります。
歯茎の痩せを最小限に抑える予防法
骨吸収を完全に止めることはできませんが、進行を遅らせることは可能です。
定期的な入れ歯の調整が最も重要
入れ歯のメンテナンスの重要性を理解していない方は少なくありません。
「痛くないから大丈夫」「総入れ歯だから定期健診は不要」と思われている方もいらっしゃいますが、これは大きな誤解です。歯茎の痩せ具合は人によって個人差が大きく、いつどうなるかを予測するのは困難です。
だからこそ、3ヶ月に1回は例え総入れ歯で自分の歯が全くないとしても、定期健診に来ていただきメンテナンスを受けることをお勧めします。完全に合わなくなってから調整するのは至難の業であり、作り替えたほうが良いということも往々にしてあります。
定期健診では、入れ歯の適合状態をチェックし、必要に応じて調整を行います。わずかな不具合でも早期に発見し対処することで、骨吸収の加速を防ぐことができるのです。
正しい入れ歯のケア
入れ歯を清潔に保つことも大切です。
食後は入れ歯を外して流水で洗い、専用のブラシで汚れを落としましょう。就寝時は入れ歯を外し、洗浄剤に浸けておくことで細菌の繁殖を防ぎます。また、歯茎のマッサージを行うことで血行を促進し、歯茎の健康を維持することができます。

栄養バランスの整った食事
骨の健康を維持するためには、カルシウムやビタミンDを含む食品を積極的に摂取することが重要です。
乳製品、小魚、緑黄色野菜などをバランスよく食べるよう心がけましょう。また、適度な運動も骨密度の維持に役立ちます。全身の骨の健康が、顎の骨の健康にもつながるのです。
禁煙の重要性
喫煙は歯茎の血流を悪化させ、酸素の供給を滞らせます。
これにより歯周病のリスクが高まるだけでなく、骨吸収も進行しやすくなります。入れ歯を長く快適に使用するためにも、禁煙することをお勧めします。
入れ歯の作り直しが必要なタイミング
定期的な調整を行っていても、いずれは入れ歯の作り直しが必要になります。
こんな症状があれば作り直しを検討
以下のような症状がある場合は、入れ歯の作り直しを検討する時期かもしれません。
- 入れ歯が頻繁に外れる・・・調整しても改善しない場合
- 痛みが続く・・・特定の部位に痛みが集中している場合
- 食事がしづらい・・・硬いものが噛めなくなった場合
- 発音が不明瞭・・・会話中に入れ歯がずれる場合
- 見た目が気になる・・・口元の印象が大きく変わった場合
これらの症状は、歯茎の痩せによって入れ歯が合わなくなっているサインです。我慢して使い続けると、さらに骨吸収が進行してしまう可能性があります。
精密入れ歯という選択肢
当院では、「しっかり噛める入れ歯」「痛くない入れ歯」「外れにくい入れ歯」を実現するために、精密入れ歯治療に力を入れています。
ブレード臼歯を用いた入れ歯や、イボカップ方式による精密義歯など、専門的な治療法を提供しています。これらの入れ歯は、咬合(噛み合わせ)を重視した設計により、見た目だけでなく機能的な安定も考慮しています。
適切な診査・診断をもとに、患者さん一人ひとりに合った治療方法を選択することが、長期的な満足度につながります。

インプラントとの比較
「入れ歯とインプラントどっちがいい?」というご質問もよくいただきます。
それぞれのメリット・デメリット
インプラントは人工歯根を顎の骨に埋め込むため、天然歯に近い噛み心地が得られます。また、骨に刺激が伝わるため、骨吸収の進行を抑える効果も期待できます。ただし、手術が必要であり、費用も高額になる傾向があります。
一方、総入れ歯は手術が不要で、比較的短期間で治療が完了します。保険適用の入れ歯もあり、費用面での負担も抑えられます。ただし、骨吸収を完全に防ぐことはできず、定期的な調整が必要です。
どちらが適しているかは、患者さんの口腔内の状態、全身の健康状態、ご希望などによって異なります。まずは現在の口腔状態を正確に診断し、それぞれのメリット・デメリットを十分に理解した上で選択することが大切です。
まとめ
総入れ歯を使用していると歯茎が痩せるのは、骨吸収という自然な現象です。
しかし、合わない入れ歯を使い続けると、この骨吸収が加速してしまいます。歯茎の痩せを最小限に抑えるためには、定期的な入れ歯の調整が最も重要です。3ヶ月に1回の定期健診を欠かさず、わずかな不具合でも早期に対処することで、入れ歯を長く快適に使用することができます。
また、入れ歯が合わなくなったと感じたら、我慢せずに早めに歯科医院にご相談ください。適切なタイミングで調整や作り直しを行うことで、快適な食生活と自然な笑顔を取り戻すことができます。
水戸市・赤塚・笠間市・ひたちなか市・那珂市・茨城町周辺で、総入れ歯や精密入れ歯治療をお考えの方は、ぜひ当院にご相談ください。咬合診断をベースにした治療アプローチで、患者さん一人ひとりに最適な入れ歯をご提供いたします。
お問い合わせ・ご予約はお電話またはウェブサイトから承っております。
歯茎のやせや入れ歯のゆるみが気になる方へ
総入れ歯は長く使う中で、お口の形の変化に合わせた調整が必要になることがあります。初診では状態確認とあわせて、今後の対処法もご案内しています。
【著者情報】

大澤一茂歯科医院 院長:大澤 一茂(おおさわ かずしげ)
歯学博士 / 日本顎咬合学会 指導医
城西歯科大学(現:明海大学)歯学部卒業後、同大学歯周病学教室に入局。1995年に歯学博士号を取得。
日本顎咬合学会認定医・指導医、近未来オステオインプラント学会(IPOI)指導医などを務め、国内外の学会での論文発表や症例発表を積極的に行っています。
インプラントや咬合治療の分野を中心に研鑽を重ね、シーラシステムの啓蒙活動や著書の執筆など、歯科医療の発展にも取り組んでいます。
患者さまが「しっかり噛める喜び」を取り戻し、日常生活の中で食事や会話を楽しめることを大切にしています。
特に総入れ歯治療では、合わない入れ歯でお困りの方が快適に噛めるようになることで、家族と同じ食事を楽しめる喜びを取り戻された患者さまの笑顔が、日々の診療の大きな励みとなっています。
また、水戸市の地域医療に貢献するため、特別養護老人ホームへの訪問歯科診療や定期検診にも取り組み、患者さまと長くお付き合いできる歯科医院を目指しています。
お口の健康を通じて、地域の皆さまがいつまでもご自身の歯で食事を楽しめるようサポートしています。
資格・所属学会
・日本顎咬合学会 認定医 / 指導医
・近未来オステオインプラント学会(IPOI) 指導医
・国際口腔インプラント専門医学会(ICOI)
・スタディグループSAEY